映画と女性、ジェンダー、マイノリティ 〜この流れは行き過ぎたポリコレなのか?〜

 1.概要

 近年、『ゴーストバスターズ(2016)』『オーシャンズ8(2017)』『THE HUSTLE(2019・日本未公開)』など、ハリウッドのヒット作の女性版スピンオフやリメイクが制作され、話題を呼んだ。今まで圧倒的な男性社会であったハリウッドで、女性版が制作される裏にはどのような流れがあるのか?映画で描かれる女性は、時代とともにどのように変化してきたのだろうか?これらの疑問に関し、ジェンダーの観点から映画を分析していく。

2. 女性映画の歴史

 はじめに、近年の映画を語る前に、映画史の中での女性映画の変遷について確認しておく。「女性映画」が多く作られ始めた1940年代から、それらが女性の解放を描くことはなく、消費のターゲットとされた女性は、映画の中で「二重のフレーム」に収められ「性役割」を固定された。それから男性が戦場に行き少なくなったことにより、女性観客に向けた映画が多く作成されるようになる。しかし、そこでも女性に与えられたのは、限定的な自由であり、結局それらは、異性愛主義、家族主義へ行きつくに過ぎない。続いて80年代、映画において女性の「場所」や「抵抗」が評価されるようになったのである[1]というのが『シネマとジェンダー アメリカ映画の性と戦争』の中で、塚田幸光氏が述べている見解である。

3.現在のメディアにおけるジェンダーバランスの実情

 次に、現在のメディアにおけるジェンダーバランスの実情を整理しておく。以下に挙げるのが、女優のジーナ・デイヴィスがメディアにおけるジェンダーギャップの改善を目指し設立した、ジーナ・デイヴィスの『メディアにおけるジェンダー』研究所が南部カリフォルニア大学、 コミュニケーション・ジャーナリズムアネンバーグ校のスターシー・L・スミス博士とその研究チームに委託し行われた調査の結果である。

  •  セリフのある登場人物のうち女性はわずか30.9%しか占めていない。
  •  女性はアクションや冒険映画に出ていない。このジャンルで女性登場者はやっと23%にしか達していない。
  •  ジェンダーがわかる1,452の映画のうち20.5%が女性で、79.5%が男性であった。またサンプルとして使った映画の中で、監督の7%、ライターの19.7%、プロデューサーの22.7% が女性であった。
  •  世界的に見て女性登場人物は性的に描かれるのが一般的である。女子・女性は、男子・男性に比べ、薄物を羽織ったり、裸だったりして性的に扱われる率が2倍も高い。また“魅力的”と表現される率は5倍も高い。若者向けの映画は、より年齢の高い聴衆向けに作られた映画に比べ、女性を性的に扱っていない。
  •  リーダーの地位には男性役が就くことが多い。女性がついているのは取締役のわずか13.9%、トップ政治家の9.5%である[2]

このように、現在のメディアにおいて、いかに女性が描かれてこなかったかは明白である。

4.新しい流れ『オーシャンズ8』

 ここまで女性映画の歴史と現状についてみてきたが、まだまだ女性がそのジェンダーに囚われた作品が多いのが現実である。そんな中、2018年にハリウッドで製作され、映画界における女性の描かれ方に新しい流れを持ち込んだ作品として話題を呼んだ『オーシャンズ8』を例に挙げ、映画内での女性の描かれ方がどう変わってきているかについてみていく。

 はじめに簡単に説明しておくと、『オーシャンズ8』は、ジョージ・クルーニー演じるダニー・オーシャンとその仲間たちがカジノ強盗を計画する、2001年に製作されたケイパームービー『オーシャンズ11』のスピンオフ作品である。『オーシャンズ8』の主人公はサンドラ・ブロック演じるデビー・オーシャン。彼女はダニーの妹で、7人の仲間を集め、メットガラでの宝石盗難を計画する。その7人の仲間が全員女性であること、それがこの作品が特に話題を呼んだ一因である。

5. 『オーシャンズ8』での女性の描かれ方

 近年、身体的にも精神的にも強い女性が主人公や重要な役割を務める映画が多く製作されるようになってきた。しかし、それらの女性たちに共通して与えられているのが「ネガティヴな動機」である。『ライリー・ノース 復讐の女神(2018)』で麻薬カルテルに立ち向かうライリーは愛する夫と子供を殺され、『ワンダーウーマン(2017)』では、女性しかいない国で生きていたダイアナは戦うことを余儀無くされる。つまり、これまで描かれてきた映画の中の「強い女性」「かっこいい女性」の多くは、「そうなることを強いられた」女性たちなのである。一方、デビーがメットガラでの宝石盗難を計画した動機は「得意だから」なのである。この映画に登場するのは、誰かや何かに強いられたのではなく、自身の意思で行動する女性たちなのである。この点が、この映画が革新的な作品であると考える理由の一つである。

 さらに、今までの映画で女性が負わされてきた性役割は、この映画には少ない。デビーが勧誘する他の7人も同様だ。次のパラグラフでは、この映画内での女性たちの描かれ方を見ていく。

 ファッションデザイナーのローズ・ワイル(ヘレナ・ボナム=カーター)の借金は、奔放な旦那に背負わされたものなどではなく、彼女自身がハウスボートを二艘も買ったりしたことが原因だ。母であるタミー(サラ・ポールソン)は、既存の母親の枠には囚われない。彼女は子供を自宅に残して、単身アジトへ移り、ヴォーグ編集部に潜入する。女優ダフネ・クルーガー(アン・ハサウェイ)も、男に主導権を握られ騙されるのではなく、その逆、主導権を握り男を騙す側に回る。最終的には、映画監督になったことも描かれている。他にも、この映画で描かれる女性たちは、これまでの映画で描かれてきた女性たちとは違い、消費のターゲットでもなければ、妻として、母親として、あるいは誰かの交際者として、補佐的な男性の一歩後ろをゆくような「女性としての性役割」を固定されていることもない。先にも述べた通り、女性のジェンダーが長年にわたり、母親や妻、家庭を守り、夫を支えるという役割に囚われてきた流れの中で、この作品での女性の描かれ方は、まさに「二重のフレーム」から解放されたと言えるのではないだろうか。

 また、この映画が革新的なのは、映画内での女性の描かれ方だけにとどまらない。出演者の女性たちは、スレンダーな白人のストレート女性だけではないという点も忘れてはならない。ミンディ・カリングはインド系アメリカ人、オークワフィナは中国系アメリカ人と韓国系アメリカ人の親を持つ。リアーナの出身はバルバドスだ。そして、もちろん演者のセクシュアリティと作品やキャラクターとは切り離されるべき事由ではあるが、サラ・ポールソンは、レズビアンであり女性との交際を公にしている。これらの点から見ても、この映画は、いまだに残るハリウッドの「白人男性中心(White・Male・Center)」に転換をもたらす流れにおいて、重要な役割を果たしたと言えるのではないだろうか。

6. まとめ

 ここまで述べてきたように、女性映画が多く作られ始めた1940年代から現在にかけて、映画内での女性の描かれ方は、随時、変化してきた。近年、『オーシャンズ8』のように、様々な人種や体型容姿、セクシュアリティの女性たちが、既存の性役割から解放され、個々の自立した人間として描かれるようになったことは、これからのエンタテイメントとしての映画界にとっても、そして社会にとっても、間違いなく良い変化であると言えるだろう。その一方で最近の映画界でのこの動向を、「行き過ぎたポリコレ」などと批判する意見も少なくはない。しかし現時点では、今回例に挙げた『オーシャンズ8』のような女性が活躍する映画や、人種的マイノリティを中心に起用する映画が増えているこの流れは、ある種のアファーマティブアクションとも言えるのかもしれないが、起こるべき当然の流れであると私は考えている。なぜなら、女性も、黒人もアジア人も、LGBTQIA+と称されるようなセクシュアルマイノリティたちも、どのような容姿や体型をして、どのようなバックグラウンドを持っているかに関わらず、確かに社会に存在しているのだから。今まで存在を無視し、あるいは固定観念に押し込めて描いてきた彼女たちを、映画の中で解放し描くことは、ポリティカル・コレクトネスの求め過ぎなどではなく、当たり前になされるべき行為、起こるべき流れの結果であるのだ。

 エンタテイメントである映画にポリティカル・コレクトネスは必要か?塚田幸光氏が述べたように「映画は社会を反映するのみならず、社会に影響を与えるまでもする[3]」のであるならば、「メディアイメージは私たちの認識の仕方に良い影響を与えることもできます。映画を作る時、未来はどうなるかの描き方を変えるのです[4]」とジーナ・デイヴィス氏も述べているように、映画内での女性やマイノリティの地位の向上は、より良い社会の未来を築く上で、必要であるだろう。


[1]塚田幸光『シネマとジェンダー アメリカ映画の性と戦争』12項〜21項(株式会社臨川書店,初版,平成22年)

[2]Dr. Stacy L. Smith, Marc Choueiti, & Dr. Katherine Pieper with assistance from Yu-Ting Liu & Christine Song Media, Diversity, & Social Change Initiative USC Annenberg,

『GENDER BIAS WITOUT BORDERS (Exective Summary) 』, Geena Davis Institute on Gender in Media,https://seejane.org/wp-content/uploads/gender-bias-without-borders-executive-summary.pdf,抄訳本田敏(http://www.unwomen-nc.jp/3290),(アクセス日2019,12,12)

[3]塚田幸光『シネマとジェンダー アメリカ映画の性と戦争』18項19項(株式会社臨川書店,初版,平成22年)

[4]ジーナ・デイヴィス,Geena Davis Institute on Gender in Media, https://seejane.org/symposiums-on-gender-in-media/gender-bias-without-borders/, 抄訳本田敏(http://www.unwomen-nc.jp/3290), (アクセス日2019,12,12)

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